2011年05月06日

満ち足りた寂しさ――イリーナ・メジューエワの弾くシューベルトのピアノ・ソナタ

 このところイリーナ・メジューエワというロシア人の女性ピアニストの弾くシューベルトのピアノ・ソナタばかりを聴いている。
それも2枚組のCDの一枚目のピアノ・ソナタ第18番ト長調ばかりを聴いている。

 とっても良いのである。

 最初の和音の連打の響き。
長調だけれどもどこか寂しげな和音が、弱音で、ピアノの響きを確かめるようにゆっくりと弾かれる。
なんとも心地よいのである。
寂しさの充ちている静けさを音にするとこうなるんだろうな、という感じで弾かれている。
その音が聴いている身体全体に沁みわたる。

 1828年に31歳で死んだシューベルトが、その死の2年前、あの歌曲集『冬の旅』の1年前に書いたピアノ・ソナタである。
ベートーヴェンのように、ひとつのモチーフが次々と展開されてアタマを興奮させる、というようなピアノ・ソナタではない。
どこかぎこちないとつとつとした語り口が、いつものシューベルトである。
しかし、メジューエワの弾くピアノの音は、アタマを興奮させることはないが、身体に静かに沁み込んでくる。

 シューベルトというのはこのように弾かれ、そして聴くのだなと納得できる演奏であり、録音である。
そのようにして聴くと、シューベルトという人の音楽の寂寥感が空虚なものではなく、どこか満ち足りたものであることが体感される。
つまり寂しさや孤独をことさら嘆くのではなく、静かな諦念をもって受容しつつそれを音楽に昇華しているのである。
ときどき舞曲風の旋律もあるが、それらはまるで寂しさとのダンスと言えるような響きを持っている。
あの調子のよい「楽興の時」の第3番の愛らしい曲も、そんなニュアンスがあるのではないか、と思いいたった。
一度、この人の演奏で聴いてみたい。

 このイリーナ・メジューエワという人は、どういうわけか日本を中心にして演奏活動をするロシア人ピアニスト。
昨年のショパン・イヤーで数々のショパン・アルバムを出し、レコード・アカデミー賞を獲得している。
そのときのアルバム・ジャケットはどれも彼女が背筋をすっと伸ばしてピアノをバックに少し大きめの瞳でどこかを見つめている写真。
ところが、このシューベルト・アルバムでは、エゴン・シーレがジャケットに使われている。
何かシューベルトに特別の思いれがあるのだろうか?
しかし、その演奏は決して連綿たる思い入れがうっとおしいというものではなく、楽譜の音をきちんとと弾いたらこんな響きが聴こえてきました、という何かとてもすっきりしたものである。
しかし、身体に深くうったえるのである。

ホント、いいですよ。

 2枚組のCD,1枚目に飽きたら2枚目を聴こうと思っているのですが、なかなか2枚目に行けません。
富山は魚津の若林工房というところで制作され、通信販売を中心に販売されているようです。

http://www.waka-kb.com/cd/


 蛇足ですが、この人のシューベルトを聴いていると、無性にセレニアス・モンクの演奏が聴きたくなるのはどうしてでしょう。
そうやって聴くと、なんかね、「’round midnight」が、すっごくわかるんですよ(ソロでもセッション盤でも)。
騙されたと思って、流れで、聴いてみてください。
やっぱり騙された、ということになるかも知れませんが・・・
posted by CKP at 17:34| Comment(0) | TrackBack(1) | 雑想・戯言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Schubert: Piano works #2@Irina Mejoueva
Excerpt: メジューエワの夏の新譜からドイツの神髄シューベルトだ。このところのイリーナはかなり頻繁にアルバムをリリースしている。しかも枚数を重ねるごとに出来映えが良くなっているのだ。この人は出自がロシア(旧ソ連)..
Weblog: MusicArena
Tracked: 2012-02-21 17:55