ユーミンは「♪悲しいときはいつも、開く皮の表紙」と、卒業写真を眺めるのであった。
「いつも」ということは反復される儀式ということである。
儀式の原型であるイニシエーション(子供から大人への通過儀礼)ついてエリアーデは次のように述べる。
「イニシエーションの儀礼の筋書きでは、『死』はカオスへの一時的な逆戻りにある。したがって、それは存在様式の終焉――無知と子供の無責任性の様式が終焉したことの典型的表現である。イニシエーションでの『死』は新しい人間形成を目的とする次々の啓示がやがて書き込まれる真白な石版、タブラ・ラサを準備することなのだ」(エリアーデ、堀訳『生と再生』東大出版会)。
つまり、卒業アルバムを開くという儀礼行為によって、人は「死んで」真白になりゼロになる。そして「人ごみに流されて変わってゆく私」を「叱って」もらうという啓示を受け取り新しい人間へと再生するのである。
もともとユーミンの唄、とりわけLP時代の唄には「死」を扱ったものが多い。デビューアルバム『ひこうき雲』の冒頭の「ひこうき雲」は投身自殺を唄ったものだ。ジャケットが思いっきりミーハーなアルバム『オリーブ』にも投身自殺が唄われている(「ツバメのように」)。その他、「遠いところ」とか「もう会えないくせに」など「死」を暗示する歌詞が散見される。
つまり、ユーミンを聞くことそのものが、「死」と向き合う儀式性をもたらしているのである。
(なんだか話がおおごとになってきましたね。知りまんせよー。)
しかし、哲学することそのものが、実は、このような儀式的要素を必要としているのではあるまいか?と、いきなり話が、スーパージャンプするのである。
「たった一つの恋の真上に、落ちていけたら死んでもいいわ」ってね(「恋のスーパー・パラシュター」『ひこうき雲』所収)。
プラトン大先生のたまわく、「真に哲学すること」とは「真の意味で平然として死ぬことを練習することにほかならない」(『パイドン』81a)。
熊に出会ったから死んだマネをする、というのとはチョッと違う。やってみたことがないから何とも言えませんが。
「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」(『葉隠』)。これはきっと相当近い(と思う)。
とにかく、哲学するとは、昨日書いたように老人になってみる、ということにとどまらず、プラトンにおいては「死の練習」というところまで行ってしまうのであった。
でも、どうやって?
それが儀式である。
プラトンは、『ソクラテスの弁明』で「知を愛し求める」つまり「哲学する」というソクラテスの仕事を「神につかえる・奉仕する」(23c)ことと伝えている。
神につかえる?
それは、一言で言えば「礼拝」という儀礼である。
このような哲学=礼拝という読み方は、おそらく多くの反論を招来するであろう。が、しかし、哲学する=礼拝という反復儀礼と考えた場合、「哲学する」=「死の練習」という規定と平仄がピッタリ合うのである。儀礼というのは「死ぬこと」なんだから。
という訳で、ユーミンは卒業写真を眺めるたびに、哲学している――という目もくらむようなカラフルな展開でした。
我ながら、無茶な展開ですね。
ふう、疲れた。
ところで、作曲家の宮川泰(ひろし)先生がお浄土へと西帰された(キリスト教徒であられたらスイマセン)。
いきなりですが、CKPがある美術雑誌で音楽評論を担当していたとき、ユーミンの死の匂いのする不安な曲相をメージャー7thコード(ド・ミ・ソに♭のつかないシがかぶさるコード)で説明したことがある。それからしばらくした頃、宮川先生もユーミンの音楽の特徴をそのコードで説明されておられた。
昭和の歌謡界を牽引された宮川先生と同じ結論に別々の理路で到達したのがうれしかった。合掌。
そのユーミン的不安がよく表現されている曲に「最後の春休み」(『オリーブ』所収)がある。
春休みのロッカー室に 忘れたものをとりに行った
ひっそりとした長い廊下を 歩いていたら泣きたくなった
・・・・・
もしもできることならこの場所に同じ時間に
ずっとずっとうずくまっていたい
決して甲子園には出場できない野球部ののんびりしたかけ声が遠くで聞こえる。 ブラスバンドの練習は同じフレーズを何度も繰り返している。
いつもと同じだ。
でも私はここにもう存在していない。
存在しない場所にずーっと存在していたい・・・。
卒業と入学の間の高校生活最後の春休みの不思議な感覚。
ゼロの感覚。それは死の感覚。
ときどきその感覚を思い出すのも悪くない。
という訳で、ここまで読んでくださった方、ご苦労様、ありがとうございました。
では、CKPもちょいと春休みをいただきます。
2006年03月24日
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